ベーコン

燻製の豚肉です

素敵なお土産

新国立劇場の「トリスタンとイゾルデ」を観た。記事にもしたが、2年前にワーグナーのオペラを演奏してから、ワーグナー楽曲への偏見がなくなり、気になる演奏や演目での実演は喜んで聴きに行くようになっている。いいことである。「トリスタンとイゾルデ」は、昨年旅行に出かけた先の、ミュンヘンバイエルンの歌劇場でも聴いたのであった。その時にも今回も、「こういう素晴らしい鑑賞体験をするためにあんなに難しい曲を弾いたのかもな」と思った。

バイエルンの歌劇場は本編のストーリーを踏襲しつつも、黙役があったり事前収録の映像を使っていたりと結構コンセプチュアルだった(事前収録して、歌手が急病とかで変わっちゃったらどうするんだろうか)。今回の新国は舞台装置こそモダンなものの、ワーグナーのト書きに即した演出だった。また、官能!耽美!というよりは、テンポは重めながら全体的に清潔な演奏だったと思う。これはタイトルロールを演じたトリスタン役のニャリとイゾルデ役のキンチャのキャラクターによるところがあるだろう。ニャリは少々パワー不足かと思ったが、二幕や三幕のここぞというときにはしっかり立っていたし、何より青年トリスタンとしての演技がよかった。キンチャはキュッとした声で溌剌とした印象のイゾルデで、なんかもうずっと強かった。私は今のところこの話はイゾルデの話だと思っているので、解釈一致!と思った。新国の演奏を聴いてバイエルンの演奏・演出について新たな解釈をし、バイエルンの演奏を思い出しながら観ると新国の演奏がなおさら面白く感じた。稀有な鑑賞体験だった。私のオペラ体験の親でありイチオシ演目である「愛の妙薬」は実演/動画配信を問わずいろいろ観ているほうだと思うが、鑑賞しながらあちらこちらの演出や演奏を行ったり来たりすることはないので、「トリスタンとイゾルデ」は自分にとってちょっと特別な作品になってしまっているのであろう。

ところで、2年前、「トリスタンとイゾルデ」を演奏するための練習期間中に、チェロのパートの方が、クソ難しい曲をわざわざ金払って練習して演奏会を開くことについて「冥土の土産よね〜」と言っていた。冥土の土産。似たような概念としてみうらじゅんの「グレート余生」があるが、お土産という言葉がかわいらしく、また(形はあってもなくても)お土産という持ち物に落とし込んでいるところを気に入り、やりたいことを選び取るためによくこの概念を用いている。もし死後の世界があったとして、そして生前の思い出を覚えていたまま死後の世界を回遊できるとして、私は何をお土産として持っていきたいだろうか? 

そういう意味では、「トリスタンとイゾルデ」は演奏体験も鑑賞体験も、私にとってはかなり上等なお土産になっているし、これからもこれに関連するものごとは特別なものとして収集していくであろう。そして、ここまで噛み応えのあるお土産もそうそうないのではないかと思っている。

なお、新国立劇場の音楽チーフである城谷さんのnoteがすごく面白い。今回の新国トリスタンとイゾルデに際して考察記事を書かれている。噛み応えを感じる。

なんかお弁当

ゆるふわ会社員のつもりだったが最近はだいたい一日12時間くらい働くハメになっている。それでも週に半分定められている出社日には、お弁当を作って持って行く。どうでもいい日の昼食代を浮かせてその分を趣味である観劇のチケット代に充てたいからである。とはいえたぶん収入が倍になって、金はあっても観劇する時間が足りない!ということになっても同じことを言ってお弁当を作ると思う。食事を作ることと箱に物を詰めることが好きだからだ。

実家を出て3年目となり、各家事と自分の性質との相性、向き不向きがわかってきた。もちろん、気力が湧かずなにもできない日もあるという前提ではあるが、料理はまあまあ好きである。料理においては、なにをどうやって作るか考える(「おいしいものを作る」だけでなく場合によっては「効率的に」「とにかく速く」「あえて複雑に」「新規性」などテーマをもって考える)、それを実行する、というプロセスが楽しい。あと、作ったものは食べたらなくなるのが良い。かつ、栄養を摂るという生命に必須の行為に直結する作業なのも良い。料理をしている時間は完全に自分のための時間である。ちょっとくらい部屋が散らかっていても人は死にはしないが、栄養を摂らないと死ぬ。そういうわけで、「食べ物買ったら済む」みたいな状況下においても料理をし、出勤時にはお弁当を作って持って行く。

 

⬛︎弁当箱について

100均に売っている、なんてことないタッパーを愛用している。溝が少なくて洗いやすいし、ダメになってもすぐ捨てられる。会社の撮影の小道具だった、ちゃんとしてる弁当箱を譲り受けて使っているときもあったが、ちゃんとした弁当箱はそれなりに重く持ち運びに不便だった。また、帰宅後に弁当箱を洗うのを忘れたまま翌日を迎えた時にお弁当を作れないことも多々あったが、開き直って複数のタッパーで回すことにしたら解決した。

 

⬛︎何を詰めるか

何をどうやって作るか考えるのが楽しいと述べたが、朝寝ぼけた頭で何を作るか考えるのは普通に無理なので、ある程度メニューを決めている。米となんかの肉となんかの野菜、余裕があれば卵を焼いて入れる。なんかのお弁当である。

 

⬛︎下準備

米はあらかじめ多量炊いて、タッパーに詰めた状態で数個冷凍しておく。また、なんか肉の炒め物もお弁当用に作ってストックする。それができない場合は冷食のおかずを買っておく(唐揚げが大容量でよい)。

 

⬛︎弁当ができるまで

朝起きて顔を洗ったら米をレンジでチン。その間に「なんか野菜」を処理する。野菜をちぎって塩を振って、お弁当調理用の小さなフライパンで熱して蒸し野菜にする(葉物野菜かブロッコリーが多い。皮を剥いたりしなくてよいもの)。米が解凍できたら、入れ替わりで「なんか肉」をレンジで処理。冷食か冷凍保存しておいた肉おかずを解凍する(夕飯の残りなどをメインおかずにして詰める場合はこの作業はスキップされる)。その間に野菜を詰める。肉が解凍できたら肉を詰める。ここまでだいたい10分程度でできる。

心に余裕がない場合、野菜を蒸したフライパンで卵を焼く。心に余裕がない時のほうがちゃんと料理めいたことをして自分を大切にした気持ちになりたいからだ。弊社はフレックスなので、特にアポがなければちょっとくらい遅くなっても問題ない。メンタルの状態を加味して卵を焼くかどうかを決めている。卵を焼くと弁当作成完遂まで15分程度である。

 

⬛︎その他

・箸は割り箸だと気が楽

・作った弁当の置き忘れや、会社での食べ忘れに注意

・夏場は保冷バッグと保冷剤を用いる

2023年に観に・聴きに行ったものたちのまとめ

【総評】

「以前にも観たことある演出だし...」と思ってオペラをパスした覚えが多かったものの数としては例年同様にあちこち出かけている。オペラやオーケストラや室内楽だけでなく、2.5次元演劇やお笑い、ミュージカル、ストレートプレイ、ジャニーズやケチャなども観られたのがよかった。

いわゆるクラシック音楽のジャンルでいうと、プッチーニ作品が上演される際は意識して劇場に足を運んでいた(5月に「ラ・ボエーム」を、8月に「トスカ」を所属のアマチュアオーケストラで演奏する、という事情があった。12月には「蝶々夫人」も演奏した)。藤原歌劇団「トスカ」は、タイトルロールを演じる小林厚子さんによる隙のない演技と歌が圧倒的。のちに所属オーケストラでもトスカを歌ってもらえることになり嬉しかった。ベタに良かったのは小澤征爾音楽塾の「ラ・ボエーム」。若手出演者の奮闘が話の筋にも合っていた。自動的に泣いてしまう作品。「トゥーランドット」は、演出に賛否あったものの自分は楽しめた。美術担当だったチームラボはファインアートでなく舞台美術の領域でもっといろいろやったら、舞台美術にできることそのものを押し広げてくれるのではないかと思う。やってほしい。

他、「ラ・ボエーム」つながりでミュージカル「RENT」や「ムーラン・ルージュ!」を観たり、「コッペリア」「ホフマン物語」をE.T.A.ホフマンの『砂男』とのつながりを感じながら観られたのは自分の選択ながら面白い鑑賞体験だった(だから何という感はあるが)。それ以外は、「二人のフォスカリ」「シモン・ボッカネグラ」など「『椿姫』じゃないほうのヴェルディ作品」を2つ観ることができた。室内楽など小さなコンサートも縁あって例年にない頻度で足を運べた。アマチュア演奏者への指導においてお世話になっている先生方が、パフォーマーとして室内楽分野で活躍されている様を見るのはしみじみとした良さがある。また、ハーゲンカルテットは非の打ち所が一点もない演奏だった。

加えて、夫の住むミュンヘンへ遠征(帰省)し、現地でオペラが観られたのは観劇生活における大きな出来事だった。しかも演目が因縁のトリスタンとイゾルデだった。とにかくオーケストラがうまく、歌手の声が(表現力を保ったままで)デカかった。旅行先として足を伸ばしたヴェローナの野外オペラも楽しかった。日が暮れていくと舞台の見え方がどんどん変わっていく様子は現地でないと味わえないものであった。

また、今年は一番好きなミュージカルである「ジーザス・クライスト・スーパースター」(以下、JCS)の劇団四季による再演があった。これまでに観たことなかったジャポネスク・バージョンということもあり、迷いなくチケットを入手して3日連続で観た。2023年に32歳の自分がJCSで佐久間仁さん演ずるユダを見ているのわけわからん(前にこういう勢いでJCSを見ていた時はたしか26歳で無職で全国公演の追っかけをしていたし、佐久間さんはユダを演じていた)。

展示については、もう仕事がどうにもならず「行きたい展示すべてに辿り着かず会期終わる...」と思っていたが、2023年とほぼ同数の企画展・常設展を観ていた。アーティゾン美術館の「ABSTRACTION」、国立新美術館の「蔡國強」あたりが強く記憶に残る。が、単に作品が大量にあった or 作品がすごくデカかったから覚えているだけかもしれない...。今年は中目黒や六本木や表参道のギャラリーにもっと行きたい。

そうこうする一方で映画はほとんど観ていない。岸辺露伴よかった〜


【演奏活動について】

前述の通り、今年は「ラ・ボエーム」「トスカ」「蝶々夫人」の公演に参加させてもらった。プッチーニの主要曲を作曲順に3曲演奏でき、表現の広がりをオーケストラの中で感じられたのはまたとない経験だったと思う(だんだん「誰も聴いたことがなかった(であろう)表現」が楽譜上に増えていく...)。また、トスカ三幕におけるチェロアンサンブルや、ブラームスのピアノトリオ、メンデルスゾーンソナタ、他オケ中ソロなどプレッシャーのかかる本番が多かった。うまくいったりいかなかったりした。緊張するのはこりごりだ!もう二度とやらん!と演奏直後は思うが、こういう機会を見ると楽器上達の一助としたい意図で飛びついてしまうから同じ思いをまた2024年もするんだろうな。こうした本番のおかげで鑑賞の幅も広がったのでここに記しておく。

 

【コンサートなど】

鈴木恵里奈/松本重孝/東フィルなどによる
藤原歌劇団公演「トスカ」
東京文化会館

アレホ・ペレス/東響/レーマンらによる
新国立劇場オペラ「タンホイザー
新国立劇場

ディエゴ・マテウス/新日フィル/ダニエル・クレーマーらによる
二期会オペラ「トゥーランドット」(ベリオによる第3幕補作版)
東京文化会館

マルク・ルロワ=カラタユード/東響/ローラン・プティらによる
新国立劇場バレエ「コッペリア
新国立劇場

Travis Japan Debut Concert Tour 2023 THE SHOW 〜ただいま、おかえり〜
ぴあアリーナMM

マルコ・レトーニャ/フィリップ・アルロー/東響らによる
新国立劇場オペラ「ホフマン物語
新国立劇場

ディエゴ・マテウス/デイヴィッド・ニース/小澤征爾音楽塾オーケストラなどによる
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトXIX「ラ・ボエーム
東京文化会館

ミュージカル「RENT」
シアタークリエ

Ensemble puls+ vol.6/ハイドンのピアノトリオNo.25,ドビュッシーのピアノトリオ,ブラームスのピアノトリオNo.1
渋谷ホール&スタジオ

浅利演出事務所「オンディーヌ」
JR東日本アートセンター 自由劇場

プレトニョフ/東フィルによる
ラフマニノフ「岩」、「死の島」、シンフォニック・ダンス
サントリーホール

ジョナサン・ノット/東響/クリスティーン・ガーキーらによる
エレクトラ
ミューザ川崎シンフォニーホール

マウリツィオ・ベニーニ/エミリオ・サージ/東フィルによる
新国立劇場オペラ「リゴレット
新国立劇場

劇団四季クレイジー・フォー・ユー
KAAT 神奈川芸術劇場

高田智士×ドイツ歌曲×高柳圭ピアノ×清水新vol.2
マーラーさすらう若人の歌」、ブラームス「6つの小品」op118、シューマン「リーダークライス」op24 ほか
国分寺市いずみホール

沼尻竜典/神奈川フィル/田崎尚美らによる神奈川フィル Dramatic Series
R.シュトラウスサロメ
横浜みなとみらいホール

ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル
帝国劇場

劇団四季ジーザス・クライスト=スーパースター』[ジャポネスク・バージョン]
JR東日本アートセンター 自由劇場
(3回観た)

ミュンヘンオペラフェスティバル2023「トリスタンとイゾルデ
Bayerische Staatsoper

アレーナオペラフェスティバル「セヴィリアの理髪師
Arena di Verona

第45回記念 芸能山城組ケチャまつり
新宿三井ビルディング55HIROBA

素敵な仲間たちと音楽を 17th
ブリッジ:ミニチュア・トリオより、小品集
ボウェン:幻想曲、三つの二重奏曲
ブリス:ピアノ四重奏曲
加賀町ホール

ブラームスの声楽アンサンブルと民謡
ブラームス:3つの四重唱曲、バラードとロマンスほか
古賀政男音楽博物館 けやきホール

劇団「ハイキュー!!」旗揚げ公演
品川プリンスホテル ステラボール

chocolate 夏コン2023
ミューザ川崎 音楽工房

田中祐子/伊香修吾/東フィルによる
藤原歌劇団「二人のフォスカリ」
新国立劇場

ジョナサン・ノット/東響/カテジナ・クネジコヴァなどによる東響定期演奏会
ドビュッシー(ノット編曲)/交響的組曲ペレアスとメリザンド
ヤナーチェク/グラゴル・ミサ
ミューザ川崎シンフォニーホール

ハーゲン・カルテットによるハーゲンプロジェクト2023 第3夜
モーツァルト弦楽四重奏曲第21番 ニ長調 K575《プロシア王第1番》
ウェーベルン弦楽四重奏のための緩徐楽章
ベートーヴェン弦楽四重奏曲第13番 変ロ長調 Op.130+大フーガ 変ロ長調 Op.133
トッパンホール

大野和士/ピエール・オーディ/東フィルによる
新国立劇場オペラ「シモン・ボッカネグラ
新国立劇場

上岡敏之×東京二期会プロジェクト I ~
モーツァルト「レクイエム」/ ストラヴィンスキー詩篇交響曲」 
東京芸術劇場

ルミネtheよしもと

さくら弦楽四重奏団2023
バルトーク弦楽四重奏曲 第6番 Sz.114
シューベルト弦楽四重奏曲 第14番 ニ短調 D.810「死と乙女」
ベートーヴェン:大フーガ 変ロ長調 op.133
ティアラこうとう 小ホール


【展示】

つげ義春と調布@調布市文化会館たづくり 2階
マン・レイと女性たち@神奈川県立近代美術館 葉山
パリ・オペラ座−響き合う芸術の殿堂 / Art in Box ーマルセル・デュシャンの《トランクの箱》とその後 @ アーティゾン美術館
建物公開2023 邸宅の記憶@ 東京都庭園美術館
プレイプレイアート展@ ワタリウム美術館
ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会@ 森美術館
ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌフォーヴィスムキュビスムから現代へ@ アーティゾン美術館
今井俊介 スカートと風景@ 東京オペラシティ アートギャラリー
寺田コレクション ハイライト@東京オペラシティアートギャラリー
蔡國強 宇宙遊 ―〈原初火球〉から始まる @ 国立新美術館
Städtische Galerie im Lenbachhaus
BIENNALE ARCHITETTURA 2023 18TH INTERNATIONAL ARCHITECTURE EXHIBITION
テート美術館展 光@国立新美術館
川瀬巴水 旅と郷愁の風景@石川県立美術館
それは知っている:形が精神になるとき@金沢21世紀美術館
鈴木大拙
KAMU
AWT FOCUS@大倉集古館
ジョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室@DIC川村記念美術館

2022年に観に・聴きに行ったものたちのまとめ

【総評】

今年は伸び伸びと観たいものを観られた。意外なことに昨年より観た数が多い。8月に大作オペラを演奏したこともあり、オペラばっかり観に行っている。「さまよえるオランダ人」「ローエングリン」「パルジファル」あたりは、「『トリスタンとイゾルデ』を演奏するからな...」と勉強のために聴きに行ったと記憶している。そして結果的には聴きに行っておいてとても良かったのであった。

舞台としてよかったのは「ばらの騎士」「ランメルモールのルチア」「ジュリオ・チェーザレ」「ボリス・ゴドゥノフ」。ばらの騎士は歌はもとより演者の演技と演出にしみじみ泣かされた。ランメルモールのルチアは演奏における時間経過のデザインが秀逸、舞台美術も(やや説明的だが)美しかった。チェーザレは読み替えの設定がおもしろく、ボリスは挑発的な演出・構成を楽しんだ。あんまりよくわかんなかったのは「ペレアスとメリザンド」「パルジファル」。いずれも独特な舞台装置がどんな意味を持っているのか、舞台を観ながら追い続けるのがしんどかったし追ってもよくわからなかった。ペレアス〜のケイティ・ミッチェル演出の二階建てモノはネットに他演目が転がっていたので(二階建てモノって他でもやってんのかよという気持ちもあるが)再チャレンジしたい。宮本亞門演出はいつかの魔笛が良かっただけにかなり面食らい、観た後ちょっと体調を崩した。最後にクンドリが飛翔したのは普通に意味不明でウケた。でも演奏はすごく良かった。

オーケストラが印象的だったのはN響の「ローエングリン」、都響の第九。タイトで柔軟な演奏が好き。

展示関連も足を運ぶ回数が増えていた(意外)。ゲルハルト・リヒター展と李禹煥展がよかった。初期作品から新作まで、試行錯誤と洗練の過程を観るのは楽しい。ベテラン作家なのでなおさら。次いで、大阪中之島美術館・国立国際美術館共催の「すべて未知の世界へ-GUTAI 分化と統合」。李禹煥展を観て以降、日本の戦後前衛美術に興味が出ていたので、「具体美術協会こんな感じ」というのが大量の作品群からおぼろげに掴み取れた(念願の中之島美術館に行けてうれし〜というのもある)。具体美術の作品群を、中之島美術館で分化をとして見せ、国立国際美術館で統合する構成も見方が深まった。さぞキュレーションが大変だったであろう…。具体美術がどのような課題を持ち、次のムーブメントへ移り変わっていったかちゃんと勉強したい。

そういえば劇団四季やミュージカルはほぼ観なかった。2024年のJCS再演に備えることとする。


【コンサート】

大井健&清水新 ニューイヤージョイントライブ
@豊洲シビックセンター ホール
1/7
モーツァルト/四手のためのピアノソナタ 変ロ長調ビゼー/「子供の遊び」よりギャロップ

新国立劇場オペラ「さまよえるオランダ人」@新国立劇場
1/29 指揮:ガエタノ・デスピノーサ 演出:マティアス・フォン・シュテークマン
オーケストラ:東京交響楽団

新国立劇場オペラ「愛の妙薬」@新国立劇場
2/7、2/23 指揮:ガエタノ・デスピノーサ 演出:チェーザレ・リエヴィ
オーケストラ:東京交響楽団

オーケストラアンサンブル豊島
第29回定期演奏会@新宿文化センター
3/26 指揮:小久保大輔
メンデルスゾーン/序曲「フィンガルの洞窟」、ボロディン/交響曲第3番、ドヴォルザーク/交響曲第6番

新国立劇場オペラ「椿姫」@新国立劇場
3/10 指揮:アンドリー・ユルケヴィチ 演出:ヴァンサン・ブサール
オーケストラ:東京交響楽団

東京フィルハーモニー交響楽団
第967回オーチャード定期演奏会@Bunkamuraオーチャードホール
3/13 指揮:ミハイル・プレトニョフ
スメタナ/連作交響詩「わが祖国」

東京春祭ワーグナー・シリーズ VOl.13
ローエングリン」@東京文化会館
3/30 指揮:マレク・ヤノフスキ
オーケストラ:NHK交響楽団

新国立劇場オペラ「ばらの騎士」@新国立劇場
4/6 指揮:サッシャゲッツェル 演出:ジョナサン・ミラー
オーケストラ:東京フィルハーモニー交響楽団

駒場フィルハーモニーオーケストラ
第35回定期演奏会@杉並公会堂 大ホール
4/17 指揮:北村由里
都立駒場高校校歌、マスネ/絵のような風景より、チャイコフスキー/「1812年」、
シベリウス/交響曲第2番

新国立劇場オペラ「魔笛」@新国立劇場
4/23 指揮:オレグ・カエターニ 演出:ウィリアム・ケントリッジ
オーケストラ:東京フィルハーモニー交響楽団

新国立劇場オペラ「オルフェオとエウリディーチェ」@新国立劇場
5/21 指揮:鈴木優人 演出:勅使河原三郎
オーケストラ:東京フィルハーモニー交響楽団

新日本フィル #641定期演奏会@サントリーホール
5/23 指揮:佐渡裕
R.シュトラウス/交響詩ドン・ファン」、バーンスタイン/前奏曲・フーガとリフス、ベートーヴェン/交響曲第7番 イ長調

NATSUAKI HIROKAZU cello concert
@カフェ・ド・キネマ大井町
6/1
バッハ/無伴奏チェロ組曲第3番 他

高田智士×ドイツ歌曲×高柳圭 ピアノ清水新
@国分寺市いずみホール
6/3 T:高柳圭 Br:高田智士 
シューマン/詩人の恋、ブラームス/4つの厳粛な歌、シューマンの主題による変奏曲

サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン
CMGオープニング 堤 剛プロデュース 2022
@サントリーホール ブルーローズ
6/4 クラリネット:吉田誠 チェロ:堤剛 ピアノ:小菅優
シューマン(キルヒナー 編曲):カノン形式による6つの小品 作品56 より
ブラームスクラリネット三重奏曲 イ短調 作品114 
藤倉大:『Hop』クラリネット、チェロ、ピアノのための
フォーレピアノ三重奏曲 ニ短調 作品120

東京フィルハーモニー交響楽団
第148回東京オペラシティ定期シリーズ@東京オペラシティ
7/7 指揮:出口大地 ヴァイオリン:木嶋真優
ハチャトゥリアンバレエ音楽『ガイーヌ』より、ヴァイオリン協奏曲、交響曲第2番『鐘』

新国立劇場オペラ「ペリアスとメリザンド」@新国立劇場
7/17 指揮:大野和士 演出:ケイティ・ミッチェル
オーケストラ:東京フィルハーモニー交響楽団

二期会創立70周年記念公演
東京二期会オペラ劇場「パルジファル」@東京文化会館
7/16 指揮:セバスティアン・ヴァイグレ 演出:宮本亞門
オーケストラ:読売日本交響楽団

混声合唱団 横浜ルミナス・コール
サマーコンサート2022@横浜市南公会堂
7/30 指揮:小久保大輔 ピアノ:清水新
信長貴富/覚和歌子の詩による混声合唱曲集 等圧線 他劇団四季「人間になりたがった猫」
8/13@自由劇場

SIGUR ROS World Tour 2022@東京ガーデンシアター
8/26

新国立劇場オペラ「ジュリオ・チェーザレ」@新国立劇場
10/2 指揮:リナルド・アレッサンドリーニ 演出:ロラン・ベリー
オーケストラ/東京フィルハーモニー交響楽団

東宝ミュージカル「エリザベート」@帝国劇場
10/12

ラトヴィア放送合唱団&新日本フィル@すみだトリフォニーホール
10/22 指揮:シグヴァルズ・クラーヴァ
モーツァルト/レクイエム、リゲティ/ルクス・エテルナ、ヴァスクス/私たちの母の名

NHK音楽祭2022 
10/31 指揮:パブロ・エラス・カサド オーケストラ:NHK交響楽団
ラヴェル/クープランの墓、マーラー/交響曲第5番

チェロアンサンブル XTC in 大泉学園ゆめりあホール
11/1
阿部俊祐/XTC EXTENDER、モーツァルト/トルコ行進曲

マリオ・ブルネロ チェロリサイタル<チェロ&チェロピッコロ>@ミューザ川崎
11/3
バッハ/無伴奏チェロ組曲 1、4番、無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番、無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番

NISSAY OPERA 2022
ランメルモールのルチア」@日生劇場
11/13 指揮:柴田 真郁 演出:田尾下 哲
オーケストラ/読売日本交響楽団

新国立劇場オペラ「ボリス・ゴドゥノフ」@新国立劇場
11/23 指揮:大野和士 演出:マリウシュ・トレリンスキ
オーケストラ:東京都交響楽団

Kawasaki Meltdown &colspan
BlackGal Party vol.3@下北沢BASEMENT BAR
12/7

フルートと能楽の共演 美と幽玄
@パウエル・フルート・ジャパン アーティストサロン新宿
12/18 フルート:金井康子 他 ピアノ:今村尚子 小鼓:森澤勇司 笛:熊本俊太郎 大鼓:佃良太郎

新日本フィルハーモニー交響楽団
「第九」特別演奏会 2022@サントリーホール
12/17 指揮:佐渡裕

都響スペシャ「第九」@東京芸術劇場
12/24 指揮:エリアフ・インバル

ベートーヴェンは凄い!2022
第20回全交響曲連続演奏会@東京文化会館
12/31 指揮:広上淳一 オーケストラ:岩城宏之メモリアル・オーケストラ
ベートーヴェン/ウェリントンの勝利、交響曲全曲

 

【展示】

地球がまわる音を聴く@森美術館
チームラボプラネッツ
アンディ・ウォーホル・キョウト@京都京セラ美術館
ゲルハルト・リヒター展@国立近代美術館
ゴールデンカムイ展@Gallery AaMo
国立西洋美術館 常設展
ウェンデリン・ファン。オルデンボルフ 柔らかな舞台@東京都現代美術館
生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展@東京都現代美術館
旅と想像/創造 いつかあなたの旅になる@東京都庭園美術館
写真と絵画-セザンヌより 柴田敏雄鈴木理策@アーティゾン美術館
すべて未知の世界へ-GUTAI 分化と統合@大阪中之島美術館、国立国際美術館
国立新美術館開館15周年記念 李禹煥@国立新美術館
第八次椿会 このあたらしい世界@資生堂ギャラリー
見るは触れる 日本の新進作家 VOL.19@東京都写真美術館
メメント・モリと写真-死は何を照らし出すのか@東京都写真美術館
イメージ・メイキングを分解する@東京都写真美術館
ダミアン・ハースト「桜」@国立新美術館
漫画とデザイン展@GOOD DESIGN MARUNOUCHI
MONSO 映画ポスターアートの最前線@国立映画アーカイブ
鉄道と美術の150年@東京ステーションギャラリー

オペラ堕天録 − トリスタンとイゾルデ

趣味の一つとしてチェロを弾いており、プロのオペラ歌手とオペラ演奏をするアマチュアオーケストラに所属している。毎年夏に主催公演を行なっていて、今夏の演目はワーグナー作曲「トリスタンとイゾルデ」だった(一幕・三幕の抜粋)。昨年6月に曲目が決まり、年明けからトリスタンとイゾルデに取り組み始めた。

 

筆者のオペラ演奏歴

これまで、抜粋ではなくフルで演奏したのは「魔笛」「愛の妙薬」「こうもり」の3演目。魔笛は2カンパニーで演奏した。舞台上バンダ(チェロ奏者役)として「リゴレット」にも出演した。トリスタンとイゾルデは(抜粋ではあるが)初めてオペラとして携わるワーグナー作品であった。また、チェロトップとして取り組む初めてのオペラ作品にもなった。

 

マチュア奏者にとっての「トリスタンとイゾルデ

あらすじや構成はwikipediaなどを参照いただくとして、日曜奏者として演奏に取り組んだ感想を言うと「もうとにかくすごい難しかった」の一言に尽きる。自身で演奏するパートの指遣い・弓運びなど演奏技術的に難しいのはもちろんのこと、音楽が途切れずずっと続く(幕中に曲の終わりを示す終止線が一つしかない)ことも演奏ハードルが(私にとって)かなり高い要因の一つだった。「魔笛」や「愛の妙薬」「こうもり」は場面ごとに曲が切り替わって、歌はほぼ一曲ごと(アリア)だった。「トリスタンとイゾルデ」は劇進行に沿って幕の終わりまでずっと歌と演奏が続いていく。レチタティーヴォ(歌唱を使っての語り)の伴奏を幕の間90分演奏しつづけるような感覚である。レチの伴奏は歌のアゴーギクに寄せて楽器の音を出すことが基本。「ずっとレチ」のトリスタンとイゾルデではまず90分×二幕分の歌を把握して、譜読みして、それからようやく指や弓など実演奏上のことを考える。実際には時間の関係で歌の把握と楽器の練習は並行して行ったが、曲の把握も演奏もめちゃくちゃ難しかった。

 

練習経過・本番までの記録

以下、阿鼻叫喚。

2022年1月、年明け早々にトップを打診いただき引き受ける。長い旅の始まりとなった。2021年12月に同団体でオペラ抜粋のガラ・コンサートを開催し、その後から譜読みを始めたが上記のような「ずっと終止線のない曲」の譜読みに、完全につまずいていた。

何をどうしたらいいかわからん。

で、その日に悩みを抱えつつ足を運んだピアノデュオのコンサートで偶然にも「トリスタンとイゾルデ」より前奏曲・愛の死がかかり、本番7ヶ月前にして逃げ場がないことを覚悟した。

 

この段階の譜読みは、指揮などを習っている師匠に協力を仰いだ。スコアを見通すレッスン(とトリスタンとイゾルデ雑談)の時間を設けてもらった。そもそも曲を聞いてスコアを見ていて落ちる(演奏箇所を見失う)ので、拍子の分かりやすい解釈やチェロパートとして気をつけるところ、オーケストラとして気をつけるべき曲のキーポイント、指揮者を注視したいポイントなどを教えていただいた。これらは練習期間序盤から後半にいたるまでかなり役立った。また、解説を受ける中で、圧倒的に曲が良く、音楽史に残る重要な作品であることを改めて思い知らされた。でもストーリーは要領を得ないな、という感想は今でも変わらない。曲が良すぎてストーリーが要領得ないことに腹が立つ。

 

そのようなレッスンを2度ほど受け、いよいよ初回合奏。上記の準備で助けられたにしても普通に譜読み困難、かつ楽器の練習は間に合ってないので合奏前数日ほどは眠れず*1(意外とそういうところがある)、初回合奏に寝坊して遅刻した。逃亡ではない。

 

2月以降、tutti(歌なしでの合奏)での練習を重ねていった。

基本的に毎週死ぬかと思っている(苦しみつつも楽しんでやっていました)。

なお、「トリスタンとイゾルデ」の一幕・三幕では三幕のほうが難しいと思う。トリスタンが死の直前に錯乱するシーンはとにかく音符が多く大変。かつ、3拍子→4拍子→3拍子→5拍子などと拍子が変わる箇所も多く、なんとなく他の人が弾いている流れで・ノリで対応するのは難しかった。おそらく指揮者にとっても難所で、この箇所は練習期中に繰り返し取り上げた。一幕は一幕で、左指の忙しい連符が詰まっていて苦心した。チェロパート個別でいうと、前奏曲冒頭のトリスタンの動機はいつまでたっても緊張ポイントだった。

 

そうこうしつつも、長いこと練習していると慣れてくるもので

ワーグナーリテラシーが高まり、元気にトリスタンとイゾルデの練習に取り組むようになっている。

 

ところで、練習期中に、ワーグナーの「ローエングリン」「パルジファル」の2作品をN響二期会の演奏で鑑賞することができた。2公演とも素晴らしく(パルジファルの演出はよくわかんなかったが、演奏はよかった)、演奏の完成度を高める道筋を立てる上でも参考になった。でも登場人物が何言ってるかはどちらもやっぱりよくわかんなかった。

ワーグナーは体調に異変をもたらすことがある。用法用量に注意。

 

本番直前期には、歌手陣との稽古が行われる。「トリスタンとイゾルデ」を演奏するにあたっては、国内で活躍する歌手の皆さまをお招きしていた。歌手にとっても特にハードなワーグナー作品をレパートリーとしている方々なだけあり、大変にパワフルだった。ピットに入らない大編成のオーケストラと張り合える声量と、声量を保っていても抜群の表現力。共演できて幸せだった。

この頃には演奏している最中には、技術的な難所はあれど以前に比べるともろもろ """かなりわかった""" 状態になっていた。画像はちいかわのキメラ。こんなになっちゃって、もうワーグナーを知らないあのころには戻れない.......。

本番は演奏会形式。手製の字幕をホールに映して上演した。ソリストや指揮者にオーケストラを引っ張り上げてもらった部分や、技術が原因となる粗も多々あったが、オーケストラとして皆で目指していた水準には辿り着けたかなと思う。

 

演奏する際に気をつけたこと

オペラ作品をチェロトップとして演奏するにあたって気をつけたのは、耽溺しないこと。これには、他のパートやソリスト・指揮者を常にモニタリングすること、自分のパートが出した音に対する他パートのレスポンスを常に確認すること、正しい音程で弾くこと、無為に弓をたくさん使わないことなどが含まれる。今回のトリスタンとイゾルデは前述の通り「ずっとレチ」のような状態なので、自分の感情を表現に乗せまくって耽溺して演奏すると、ソリストに合わなかったり、曲が動かなかったりなど演奏タイミングの面で破綻が起こる。とはいえアマチュアなのだし、ある程度そういう要素があってよいと思うが、それはパートの方にお任せし、自分は努めて冷静に/(なるべく)正確に演奏することだけを心掛けた。演奏を全て完璧にできたかはともかく、特にソリストが入って以降、冷静に演奏するのはずっと心掛けていた。

演奏後は「熱量ある演奏だった」と多くの感想をいただき、冷静に演奏していても、熱量あるっぽく聞き手には感じられたようだった(もちろんそういう感想をいただけたのは自分の演奏だけのおかげではないが)。気持ちも大事だが、それよりも正しく演奏することがより大事で、正しく演奏すれば楽譜で意図された表現は自然と形になって、聞き手にも届きやすい。聞き手に届くと演奏していて楽しい。例えば、「悲しそうな音」を出すのに必要なのは悲しい気持ちだけではなく、それに応じた楽譜を音で再現するための弓の使い方や正しい音程。悲しい気持ちに浸るのも不必要ではないが、悲しいのは現実だけで十分なので、それより腕で作用する部分にリソースを割いたほうが気が楽だし、聞き手にとっても効果的であろうと改めて思い直した(とかいいつつ、今後も悲しそうな箇所は悲しそうな顔をして弾くんだろうが...それはそれで楽しいんで...)。

少々話が逸れたが、「冷静に伴奏に徹する」「作曲家やストーリーの意図(=ほぼ楽譜)に忠実に演奏する」ということを特に意識し、実行できた公演であった。今後、アンサンブルを伴うあらゆる演奏に資する体験であろう。また、技術的な課題(演奏技術・譜読みの技術)も長尺の曲を練習し学ぶ中で浮き彫りになったので、解決する道のりを楽しみに取り組めればと思う。

 

なお、トリスタンとイゾルデに取り組んだ副産物の一つが、

他の曲に取り組むとき「トリスタンとイゾルデよりはマシだから頑張ろう」と思えることである。

*1:オーケストラメンバーが厳しくてプレッシャーがあった、というわけではなく、勝手に緊張していた

2021年に観に・聴きに行ったものたちのまとめ

【総評】

引き続き、流行病に翻弄される1年だった。観た公演の翌日の興行が中止になって自動的に自分の行った公演が結果的に千秋楽になってしまったり、来週の同演目の2枚目のチケットが払い戻しに...なんてことも複数あった。「推しは推せるうちに推せ」という先人たちの言葉を胸に、観たいものは総じて観られたと思う。

 舞台関連では宮本亜門演出の「魔笛」が、2021年の中で一番良かった。整合させることの説得力、そしてその説得力で展開する舞台は強烈に人の心を動かすことができる。舞台が持つ力を感じた2時間半だった。私の好きな舞台を強烈に肯定してくれたようでうれしくなった。説得力の重要性は、アレックス・オリヒ演出の「カルメン」を観ても頭をかすめた(こちらは反省会的に記事にした)。斬新でかっこいいもの、およびよくわからんものは現代美術で見慣れていると思っていたが、それらは私がわからないなりにも作品の中には必然性があって成り立っていた。それが見えない表現は観者がマジで結構苦しい。わからないで苦しいのではなく、作品それ自体がゆらぎ、視線を委ねられないことが苦しい。とはいえ、長時間そういう苦しい気持ちになって、演出家のインタビュー見たりなど作品に入れ込んで、やっぱりなにをどう説得してえのか全然わかんねえなと思う経験は今後も年一回くらいはしたい。

 演奏で良かったのは新国オペラの「ルチア(ランメルモールのルチア)」。映画を観るように号泣した。演出や舞台の美しさもあるが、何より(歌手の演技含む)演奏が刺さって揺さぶられたように思う。1835年のオペラでこんなに号泣することある? 美しいフィナーレのあとにじわりと拍手が広がっていったのは、私だけが号泣していたからではないことの証である。あとはCello Ensemble XTCの演奏会。個々の奏者の演奏能力の高さと、当て書き的に寄り添いつつも立ちはだかる楽譜のヤバさ、そしてそれを乗り越えパフォーマンスにしていたのは印象的。個性豊かな編曲の中でつんくLOVEマシーンは現地で撮影OKだったこともあり、録画して何度も観た。「楽しそうな演奏」は聴いていて楽しいが、楽しそうに演奏するだけでは絶対に成り立たない。楽しそうっぽく演奏するには、そのように観者に感じさせるための演奏力が必要。それは気持ちの問題でなくて(もちろん多少は気持ちの問題もあろうが)、音程を絶対に外さないとか、適切な弓のコントロールとか身体の問題がほとんど。そういうことを肝に銘じるために、今でも折に触れて録画を観る。

 あとは、唐十郎を2回も観られたのが良かった。アングラに限らずストレートプレイはもっと観たいところだが、自分が演奏するという都合もあり、どうしてもオペラ・オーケストラほか音楽公演に偏る。このペースだと年2回くらいを目指していくのが妥当か。

 劇場通いが増えたこともあるにせよ、展示関係はいずれも事前予約必須なところが増えて、ぶらっと行けるところが少なかったのもあってかなり厳選。横尾忠則とロニ・ホーンが良かった。横尾忠則の圧倒的な画面構成力・世界のブレなさはどの絵も一貫しており、それらのデザインへの応用を興味深く見るとともに、単純になんか元気が出た。ロニ・ホーンは単にめちゃくちゃ好みの作家だった。冷たく、かつ湿度のあるわびさび。

 映画はもう、なんといってもポンポさん。ポンポさんが一番。何度でも見返したいけれど、それはもっともっと折れてしまったとき、すなわち私の人生の大事なときにとっておく。そんなかけがえのない90分だった。

 

【コンサート】

新国立劇場オペラ プッチーニ「トスカ」
1/23 指揮:ダニエレ・カッレガーリ 演出:アントネッロ・マダウ=ディアツ 
オーケストラ:東京交響楽団

劇団四季「The Bridge 〜歌の架け橋〜」
1/27@四季劇場

劇団四季「The Bridge 〜歌の架け橋〜」
2/10@四季劇場

NHK交響楽団 2月公演@東京芸術劇場
2/13 指揮:熊倉優 Vn独奏:イザベル・ファウスト
スメタナ/「売られた花嫁」-3つの舞曲、シマノフスキ/Vn協奏曲 第1番、ドヴォルザーク/交響曲第6番

オルガンと朗読で聴く「幻想交響曲
2/20  パイプオルガン:大木麻理 語り:山科圭太

都響スペシャル2021@東京芸術劇場コンサートホール
2/28 指揮:大野和士
サン=サーンス/死の舞踏、リスト:死の舞踏〜「怒りの日」によるパラフレーズ
コダーイ/ガランタ舞曲、ヤナーチェク:狂詩曲「タラス・ブーリバ」

新日本フィルハーモニー交響楽団 第631回定期演奏会@サントリーホール
4/8 指揮;尾高忠明 Vn独奏:山根一仁 Sop:砂川涼子
モーツァルト/Vn協奏曲第5番「トルコ風」、マーラー/交響曲第4番

新国立劇場オペラ ドニゼッティ「ルチア」
4/23 指揮:スペランツァ・スカップッチ 演出:ジャン=ルイ・グリンダ
オーケストラ:東京フィルハーモニー交響楽団

紀尾井ホール室内管弦楽団 第126回定期演奏会
5/22 指揮:垣内悠希 Vn独奏:玉井菜採
モーツァルト/歌劇「イドメネオ」抜粋、Vn協奏曲第4番
ストラヴィンスキー/ダンス・コンセルタント、「火の鳥シェーファー編、室内オーケストラ版)」

浅利演出事務所「夢から醒めた夢」
5/25@自由劇場

劇団四季「CATS」
6/1@キャッツ・シアター

浅利演出事務所「夢から醒めた夢」
6/5@自由劇場

新国立劇場バレエ グラズノフ「ライモンダ」
6/12 指揮:アレクセイ・バクラン オーケストラ:東京フィルハーモニー交響楽団
ライモンダ:木村優里、ジャン・ド・ブリエンヌ:井澤 駿

新宿梁山泊 第70回公演「ベンガルの虎」@花園神社
6/23 作:唐十郎 演出:金守珍

新国立劇場オペラ ビゼーカルメン
7/17 指揮:大野和士 演出:アレックス・オリエ 
オーケストラ:東京フィルハーモニー交響楽団

ジーザス・クライスト・スーパースター in コンサート@東急シアターオーブ
7/18 演出・振付:マーク・スチュアート
ジーザス:マイケル・K・リー イスカリオテのユダ:ラミン・カリムルー

パスカル・ヴェロ×仙台フィル
7/22 指揮:パスカル・ヴェロ オルガン:今井奈緒子 合唱:東京混声合唱
サン=サーンス/交響曲第3番「オルガン付き」、ベルリオーズ/序曲「ローマの謝肉祭」、ラコッツィ行進曲、ドビュッシー/夜想曲

二期会オペラ ベルク「ルル」
8/29 指揮:マキシム・パスカル 演出:カロリーネ・グルーバー
オーケストラ:東京フィルハーモニー交響楽団

二期会創立70周年記念公演 モーツァルト魔笛」@東京文化会館
9/8 指揮:ギエドレ・シュレキーテ 演出:宮本亜門
オーケストラ:読売日本交響楽団

東京フィルハーモニー交響楽団 第956回オーチャード定期演奏会
9/19 指揮:チョン・ミョンフン
ブラームス/交響曲第3番、第4番

東京交響楽団 東京オペラシティシリーズ第124回
10/22 指揮:ジョナサン・ノット
デュティユー/交響曲第1番、モーツァルト/レクイエム

フレンドシップコンサート@王子ホール
11/3 メランデ・ピアノ三重奏
メンデルスゾーン/ピアノトリオ第1番、アレンスキー/ピアノトリオ第1番、フランク・ブリッジ/幻想曲

Cello Ensemble XTC @トーキョー・コンサーツラボ
11/12 
阿部俊祐/レクイエム 〜井伊準の思い出に〜、つんく/LOVEマシーン

劇団四季劇団四季アンドリュー・ロイド・ウェバーコンサート 〜アンマスクド〜」
12/10@Brillia HALL

劇団四季劇団四季アンドリュー・ロイド・ウェバーコンサート 〜アンマスクド〜」
12/22@KAAT

さくら弦楽四重奏団2021@ティアラこうとう小ホール
12/24
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第6番、第7番、バルトーク/弦楽四重奏曲第2番

COCOON PRODUCTION 2021 「泥人形」
12/25 作:唐十郎 演出:金守珍

 

【映画】(順不同)
あのこは貴族
映画大好きポンポさん
劇場版呪術廻戦0
のさりの島
鬼滅の刃 無限列車編

 

【展示】(順不同)
SURVIVE EIKO ISHIOKA@ggg
谷口奈津子 個展 「庭と侵略者」 Mograg gallery
ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展@東京オペラシティ アートギャラリー
眠り展:アートと生きること @東京国立近代美術館
20世紀のポスター@東京都庭園美術館
杉浦非水 時代をひらくデザイン@たばこと塩の博物館
アナザーエナジー展@森美術館
GENKYO 横尾忠則 原郷から幻境へ、そして現況は?@東京都現代美術館
イサム・ノグチ 発見の道@東京都美術館
ライゾマティクス_マルティプレックス@東京都現代美術館
モネ-光の中に、ロニ・ホーン 水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?@ポーラ美術館

カルメンと表現の必然について

新国立劇場で「カルメン」を観た。

www.nntt.jac.go.jp

 

演者、特にカルメン・ミカエラは演技も歌も集中が無限に持続しているようで、緊迫感あるステージでした。演奏も曲もよかった。

気になったのは、読み替えの演出。

 

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